濹堤通信社綺談

江都の外れ、隅田川のほとりから。平易かつ簡明、写真入りにて時たま駄文を発行いたします。

地方自治体と体操と私

 あなたは、「地方自治体の制作した体操」という世界を知っているか。
 もしかしたら、あなたの払った住民税固定資産税酒税自動車税その他によって、「体操」が制作されているかも知れない。そう、あなたにとって「地方自治体の制作した体操」という世界は他人事ではないかもしれないのだ。
 そして僕は、この地方自治体の制作した体操が好きだ。このブログでは、僕が好きなものを好きなだけ好きなように書く、ということを是としているので、今回は自治体が制作した体操のお話である。若干、長い。
 なぜ好きなのか、という話は後述するとして、自治体が制作した体操は大きく分けて以下の3種類に分類することができる。
・主として学校教育で使用する目的のもの
・主として高齢者向けのもの
・「体操」と名がつくが、ダンス的性格の強いもの

 以下、この分類に基づき自治体の制作した体操の特徴とその魅力を紹介していこうと思う。

主として学校教育で使用する目的のもの

 これは、何と言っても千葉県の「なのはな体操」が代表例である。
 youtu.be
 若年者の体力作りを目的としているため、比較的に動きが複雑で、運動量の多いことが特徴である。実際にやってみると、とんでもなく疲れたりする。さすがに「体をほぐす」ための体操とは訳が違う。
 また、学校教育に取り入れられている地域では、半ば強制的にやらされるために、強烈な(ネガティブさを含む)印象を人々に植え付けていることもある。代表例として挙げた「なのはな体操」は、千葉県下の小中学校にて行われる運動会・体育祭などの定番らしく、この点でも名高い。天下にとどろく千葉県管理教育の賜物、という気もするが。
 制作された年代としては比較的古いものが多く、近年にこの種類の体操が新しく制作されている例は確認できていない。
 その他には神戸市の「神戸体操」、茨城県の「茨城県民体操」、大町市の「アルプス体操」などがある。いずれも中々ハードな体操である。
 今回は地方自治体制作のものに絞ったため範囲から外れるが、陸上・航空自衛隊の「自衛隊体操」はこの種類の体操の強化版と言えるかもしれない。

主として高齢者向けのもの

youtu.be

 現在確認している自治体制作の体操の中では、この種のものが圧倒的に多い。制作された年代としては、先述の学校教育向けのものよりも新しいものが大半である。
 深刻な高齢化社会をむかえ、介護負担の増加などが社会問題となる中で「介護予防」「転倒予防」「健康」「元気」「いきいき」「すこやか」などのキーワードが体操名に含まれることが多い。
 体操の動作は学校教育で使用する目的のものと比べ穏やかであり、また筋力の低下した高齢者向けに、椅子に座った状態で行えるものなども用意されていたりする。
 なお、2007年に日本整形外科学会が「筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こり、「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態」を指す「ロコモティブ症候群」を提唱してからは、「ロコモ体操」「ロコモティブ予防体操」などの名がつく体操が散見される。

 そしてこれは完全に個人的、かつ趣味的な視点からではあるが、この種類の体操が一番「面白い」。
 まず、使用されている音楽に多様性がある。体操のために新たな楽曲を制作する場合もあるが、その場合には無個性なものになりがちである。この種類の体操においては、音楽として自治体ゆかりの自治体歌や自治体愛唱歌を使用していることがある。僕はこういった、特定の人間集団だけでしか歌われない(そしてその内部でもあまり知られていなかったりする)歌が大好きなので、体操動画を探していてそういうものに出会うと嬉しくなる。
 また、動画の中で模範動作をしているのがいかにもな素人だったりするのもポイントが高い。ナレーションにも素人感が溢れていたりすると最高だ。どこか間の抜けた自治体歌に乗せて、素人の高齢者がゆるやかな体操をし、メリハリのない素人っぽいナレーションが動作の解説をする。こんなに笑顔になれる動画があるだろうか。どうせ税金が投入されるのであったら、こういう体操を制作してほしい。実際の認知率や普及の状況はどうだっていい。だって趣味で見ているだけなのだから。
 そんな「面白い」体操の代表例として、勝手に挙げさせてもらうのが鹿児島市の「らくらく体操」である。
らくらく体操・・・'楽しく'のらく、'苦しまずに楽に'のらく、英語で'ラーク'はひばり(夜明けを告げる春の鳥で快活・知恵の象徴)を意味する
毎日楽しく・・・体操そのものを行うことと、生活の質の向上の両方の意を含む
シャキッと・・・「シャキッと生きる」を目標にする
シャンシャン・・・「シャンとする」という鹿児島弁
85・・・私たちが目指す「活動的な85歳」の85
SS85運動・・・「シャキッと」「シャンシャン」の頭文字をイニシャルで示した介護予防の普及啓発の取り組みの通称名とする

 もう、何もかもがすごい。「らくらく」の時点から、字面からは想像できない深い意味に満ちている。「シャキッと」「シャンシャン」「85」の響きもいい。すごい。大好きだ。
youtu.be
 実際に動画を見てみてみると、「SS85」には振付があることがわかる。ただの標語ではないのだ。体操を行う者の体力に応じて、3段階も体操を擁している細やかな気遣いが光る。そして流れ出す「鹿児島市民歌」は少年合唱団の歌唱であることも相まって、どうしようもなく「校歌」的である。大好き。言うことない。ありがとう鹿児島市……
 蛇足ながら、前述の「ロコモ体操」系のものは判を押したように「面白くない」ことが多い。もっと頑張っていただきたい。

「体操」と名がつくが、ダンス的性格の強いもの

 これも、制作された年代は新しいものが多い。また、幼稚園・小学校などの教育機関で使用されることもあるため、第1の種類の亜種であるとも言える。
 特徴としては、体力づくりといったことよりも「動き」そのものに重点が置かれる。音楽もオリジナルのアップテンポで、ご当地色の強い歌詞がついているのも特徴である。
 代表例としては、白石市の「白石うーめん体操」を挙げる。
youtu.be
 これはちゃんと調べた訳では無いのであくまで印象でしかないが、この種類の体操は自治体が初等教育向けに制作した、地域の歴史や風土を盛り込んだ歌詞の曲に振りをつけた「○○音頭」の流れを現代的にしたものではないかと思う。
 かつては幼児向け作品においても「ドラえもん音頭」「ポケモン音頭」といった音頭系楽曲があったのが、妖怪ウォッチの「ようかい体操第一」のヒットによって「これからは『体操』の時代だ!!!」と思ってしまった人がいたのではないか。知らんけど。

 この種類の体操は、「ダンス」を名乗っているものと正直な所差別化されている点が見出しづらい。ので、好きなダンスについても書いてしまう。
 そもそも、地方自治体のお役所というところはやたらと「踊り」が好きなところである、ということはここまで読んでくれた奇特な方なら薄々気づいたかと思う。
 踊らせる対象は住民だけではなく、時に自治体職員に及ぶ。数年前の「恋するフォーチュンクッキー」や「恋ダンス」を「踊ってみた動画」として動画共有サイトにアップロードする自治体が続出したのを、覚えている人もいるかもしれない。(この辺のおすすめもそのうち紹介するかもしれない)
 そんな自治体職員踊るシリーズで一番好きなのが、「ぐんまちゃんダンス「ミンナノグンマ」群馬県庁 Ver.」である。
youtu.be
 群馬県庁の部署紹介動画的性格も持たされているのであろう。様々な部署の職員が踊ったり、踊っていなかったり、踊れていなかったりする。ちなみに「ぐんまちゃんダンス」は群馬県下の様々な団体によって踊られているので、興味を持たれたなら好きなだけ見ることができる。

以下、宣伝

 さあ、もうここまで読んでしまったあなたは「僕も自治体制作の体操で健康になりたい!」「私も自治体歌に合わせて体を動かして郷土愛を高めたいわ!」「わしも税金に踊らされたいぞい!」「でも、ここに紹介されている体操だけだと物足りない……」となっていることだろう。なっているよな。なっているんだ。
 そんなあなたにおすすめなのが、その名も「体操botbot_taisou」なのである。
 twitter.com
 このアカウントをフォローすると、30分に1つ、あなたのタイムラインに自治体制作の体操が紹介されるという寸法である。たまに変なのも混じっているがそれは御愛嬌。@つきツイートをすれば、あなただけにおススメの体操を紹介してくれる機能もある(若干のタイムラグはある)。
 果たして誰がこんなアカウントを運営しているのかといえば、そう。僕だ。
 まあ、皆様の日々の健康増進に、好奇心の充足にと様々な面でお役立ていただければ幸い。