濹堤通信社綺談

江都の外れ、隅田川のほとりから。平易かつ簡明、写真入りにて時たま駄文を発行いたします。

私家版:社会主義日本におけるエレクトリーチカ

 Электричка(エレクトリーチカ)というのはロシア語で、日本語に訳す際はまあ「電車」と訳せばいいと思う。
 ただし、電気で動く車といっても路面電車は含まない。もちろん無軌条電車(トロリーバス)も、電気自動車も含まない。日本語で何の前置きなく「電車」と言ったときに指す、JRや私鉄が走らせている電車をイメージすればいい。故に、Электричкаは電車と訳せばいいわけだ。

 そんなエレクトリーチカは言葉の意味だけでなく、実は何もかもが日本の電車に似ている。その存在意義や運用といったものに加え、外観までも日本の電車と比較してあまり違和感を抱かせない。
 そもそも日本の鉄道のオタクさんは海外の動力分散型列車が好きだったりするが、そんな中でもエレクトリーチカは一定の人気を持つものと考える。

 ところで「ソ連によって占領された経験を持つ社会主義国家たる戦後日本」というのも、まま見られる題材である。
 矢作俊彦『あ・じゃ・ぱん』、佐藤大輔征途』などといった作品名を出すに及ばず、歴史ifや現代ものSFに興味があるオタクであれば一度は考えると言ってもいい。
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 上記2つの概念を融合させると、「日本版エレクトリーチカ」というものが生まれる。
 本稿は、Nゲージにおける「日本版エレクトリーチカ」作成につき、その経緯と工作手順について概要を述べた上で、僕が好き勝手なことを書き散らすものである。

先行研究

 「日本版エレクトリーチカ」を作成した事例は、web上にて閲覧できるものだけでも数件存在する。
 おっとっと氏による『社会主義日本エレクトリーチカを作る』、v43*****氏『東日本人民鉄道 エレクトリーチカ』などが挙げられる。
社会主義日本エレクトリーチカを作る (完) | 地味鉄庵
blogs.yahoo.co.jp

 しかしながら、そのいずれもが4ドアや3ドアといった通勤型の車体を持つことがわかる。
 これはかつて、鉄道趣味界隈におけるエレクトリーチカの訳語として「通勤電車」が定着していたことによるイメージではないかと考える。
 ソ連における実際のエレクトリーチカは、そのほとんどが2ドア車であり、運用についても走行距離100kmを超えるようなものも存在する。
 故に、エレクトリーチカの性質に近いのは「通勤電車」よりも、むしろ「近郊電車」ないし「中距離電車」ではないかと考える。これを踏まえ、今回の作成にあたっては2ドア車をベースとした。

作成記

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 作成にあたってベースとしたのは、グリーンマックス エコノミーキット 80系300番台である。
 価格の面、また加工を行うにあたっての容易さを勘案し、GM製エコノミーキットを使用した。
 国鉄80系電車は2ドア車であり、国鉄においては100km超の運転を行うなど「中距離電車」の始祖と言える。特に300番台は軽量客車の技術をベースとした全金属製車体であり、これはエレクトリーチカのイメージに合うものと考えた。また、シルヘッダが存在しないことから加工にあたっても容易であると判断した。
 このベース選定を踏まえ、原案としたのはエレクトリーチカの中でもЭР2(ER2)である。
ЭР2 — Википедия


 今回は旧型国電をエレクトリーチカっぽくしつつも、「社会主義日本におけるエレクトリーチカ」ということで日本の匂いも残すことを目標とする。

車体

 エレクトリーチカらしさを醸し出す重要な要素として、車体に走る太いビードの存在がある。
 このビードの表現には、古典的方法ではあるが0.5mm幅のICテープを使用した。Nゲージの車両が1/150のスケールであることを考えると、これは実車においては7.5cm幅の極太ビードになるわけだが、「模型的な見栄え・わかりやすさを追求したデフォルメである」という言い訳を採用した。あと、おもちゃっぽい造形は単に僕の好みでもある。
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 ICテープの使用についても、極細プラ帯を切り出す、伸ばしランナーを大量生産する、エバーグリーン等のプラ半丸棒を調達するなどの諸案から予算・加工の容易さを勘案した結果である。
 また、この方法においては以下の2点の問題点が見つかった
 ・ICテープの性質上粘着力が弱く、ある程度の長さがある場合はいいが、短いと剥がれてしまうことがあった
 ・材質が紙であるため表面が平滑でなく、サーフェイサーを吹いてもプラとの差が目立った
 なお、これら問題点の解決にあたっては低粘度タイプの瞬間接着剤を併用し、ペーパーがけを行うことで解決できるものと思われる。

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 前面の加工としては、雨樋と窓下への前照灯、さらにスカートの増設を行った。
 雨樋は側面ビードの表現にも使用した、0.5mm幅のICテープを使用した。
 前照灯は銀河モデルの国電用を埋め込んだ。おそらく113系あたりに使用するパーツだろうとは思うが、よくわからない。
 スカートとして使用したのは、KATOのDF200用assyパーツである。当初はそのまま使う予定であったが、レール面とのクリアランスの関係からステップとスノープラウをカットした。カプラがアーノルドタイプのままなのは、僕の趣味と理念によるものである。

 ヘッドマークは、GM製の関西急電用ステッカーの中央に星型パーツを接着して作成した。星型のパーツはネイルアート用のもので、DAISOにて購入した。

足回り

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 台車には国鉄DT22台車を使用した。動力にもGM製DT22を用いた。
 気動車用の台車ではあるが、コイルばねの感じがエレクトリーチカっぽいので採用した。加えて秋葉原の某中古鉄道模型店で投げ売られており、台車が1両分200円、動力が850円と破格だったため大量に買い占めた。

塗装

 塗装についても、今回は独自の解釈を行った。なお、特筆なき場合はMr.カラーの基本色をそのまま、調色などは一切行わずに使用した。
 先行事例において、「日本版エレクトリーチカ」は暗緑色系の塗装がされることが多いが、どれだけ実際のエレクトリーチカの写真を見ても暗緑色には見えなかったため、今回はより明るい緑、Mr.カラーのグリーン(C6)を使用することにした。
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 実際のソ連におけるエレクトリーチカの標準塗装は、側面に黄帯・前面に赤の警戒塗装であるが、今回はあえてそれを逆の配色とした。側面に赤帯は戦前における鉄道省の3等車を示すものであり、戦後社会主義化した日本においてもそれが受け継がれたものである。使用色はそれぞれ赤がレッド(C3)、黄がイエロー(C4)である。
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 屋根の塗装では、明るいグレーを明灰白色(C35)、濃いグレーをジャーマングレー(C40)を用いた。信号炎管はホワイト(C1)である。
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 パンタグラフTOMIXのPS13をレッド(C3)で塗装した上で乗せた。黒染めされているためか、サフ吹きすることがなくても塗料がきちんと乗った。
 床下機器はつや消しブラック(C33)である。

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 また、ウェザリングを行っている。使用したのはタミヤウェザリングマスターである。台車からのブレーキ鉄粉表現として床下・車体裾に茶系を、屋根上はパンタからの飛沫として茶色を、また蒸気機関車が併用されているとの設定で全面に黒ですす表現を行った。
 これらウェザリング表現は控えめに言ってオーバー、有り体に言えばドギツいものであるが、単純に僕の趣味である。批判は受けても、否定される謂れはない。

完成

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 主に塗装における技量面の問題から、お見苦しい点はあるかと思う。側面はエレクトリーチカさが溢れるが、正面から見れば80系の匂いが消せていないのも不満点である。
 またドロドロのウェザリングは、鉄道模型において許容される範疇を超えるものである自覚はある。
 何はともあれ、僕なりの社会主義日本版エレクトリーチカができた。まだ大きなレイアウトで走らせてはいないが、一度走らせたなら人々の耳目を集め、運転会のアイドルとなり、東西日本を隔てる軍事境界線を越えて走り抜ける統一電車となることは間違いないであろう。