濹堤通信社綺談

江都の外れ、隅田川のほとりから。平易かつ簡明、写真入りにて時たま駄文を発行いたします。

この夏、風呂に入ってビールを飲むために作ったものたち

 最近、色々なことをあんまり楽しめていない。楽しいと感じない、という方が正しいのかもしれない。
 仕事は忙しい。夏というのは僕の仕事としては量的な繁忙期であるし(質的な繁忙期はこれから年末にかけてだ)、端的に言ってしまえばそのストレスにやられていたのだろう。

 そんな中で楽しいことはといえば、風呂に入ってビールを飲む。これだ。どんな時であれ、これだけは間違いないのだ。

 風呂に入るというのは、さっと汗を流すとかそんなのではない。
 世の中には湯船につからず、シャワーだけで済ませられる人も今や珍しくないのだと思うが、僕にはそれができない。
 休みの日であれば、最低でも30分。1時間以上だって風呂に入っていることもざらだ。できることなら、可能な限り、じっくりと湯船に身を沈めなければ満足できない。それも、ぬるいお湯ではないのに。

 これからさらにガス代が上がりそうのは、なんとも大きな悩みの種だ。


 そして風呂から上がったならビールを飲む。よく冷えたビールを流し込む。これだ。最高なのだ。
 瞬く間に1本めを空けると、すぐに2本目のプルタブを起こしたくなる。しかし2本目ともなると、素ビールでは少しばかり寂しくなってくる。何かつまめるものがあればもっと魅力的になるな、と思ってしまう。
 そういうわけで、この夏はビール向きのつまみになりそうなものばかり作っていた。
 まだまだ暑い日もあるだろうし、別に暑くなくともビールは美味いのでその一端をここにご開帳しておいたら、もしかしたら誰かの役に立つのかもしれない。

 そういえば、なにやらはてなブログのトップページに載っけていただいたようで恐縮です。
 更新は極めて不定期ではありますが、そこからいらした方、どうぞよろしくお願いします。

老干媽でナムル的なものを作る

www.laoganma-japan.co.jp

 老干媽(ローカンマ)をご存知だろうか。おじさんが描かれたラベルが特徴的な瓶に入った、日本でも少し前に流行ったいわゆる「具入りラー油」というやつだ。
 なんでも中国では国民的調味料とまで言われるらしく、実際中華系の食料品店に行くと様々な種類のものが売られている。
 眺めていると色々ありすぎてよくわからなくなるのだが、僕は豆豉入りのラー油が気に入っている。豆豉というのは大豆を発酵させて作る調味料で、粒のままの味噌のようなやつだ。レトルトの回鍋肉の素とかにちょっぴり入っている、あれだ。コクと旨味にあふれていて、すごくいい。


 スーパーで売っているハウス食品エスビーのシーズニングでナムルを作ってやるときに、この老干媽を大さじ1ほど入れてやる。赤くはなるが見た目ほど辛くはならない。
 風呂に入る前に仕込んでおくと、ホカホカになって出てきて2本目の缶をプシュッといくころにはちょうどいい塩梅になっていてくれるのが何より嬉しい。
 手間もかからないので、この夏は人に会うたびに勧めて回っていた。ビールでなくとも様々なものに合うと思うので、ぜひお試しあれ。

豉油猪肉を食い尽くす

 豉油猪肉、豚肉の醤油煮というところだろうか。図らずもまた中国語の単語から始まってしまうが、特に意味はない。
 これは邱永漢の『食は広州に在り』で読んで知って、簡単でありながらなんとも美味いので度々作るようになってしまったやつだ。

 同著の中では奥さんが中々来日できないというエピソードの中で紹介されるのだが、「調理がなるべく簡単で、保存がきいて、そのうえ、むだが出ない料理」と言われているとおり、実に一人暮らしに向いている。

 肉のハナマサが極めて至近にあるので、思い立ったらいつでもこういう豚バラのブロックを手に入れることができる。

 こいつをどすんどすんとぶつ切りにしたら(今回は塊の段階で一度下茹でをしたが、べつにしなくてもいい)、五香粉をまぶし、八角を入れ(なくてもいい)……

 長ネギを青いところまでぶつ切りにしたのを入れ、水と醤油を1:1で煮る。貧乏性なのでどうしても鍋が寂しく見えてしまうから、大根とゆで卵も入れておく。
 なんと、これだけだ。酒やみりんや黒酢を加えてもいいし、入れなくても別に構わない。僕は入れる。入れた。

 じっくりコトコト煮込んでいくと、部屋中に八角の効いた「中華圏の匂い」としか言えないあの匂いが漂ってくる。
 ちなみにこの時はエアコンもつけずに扇風機から送られてくるぬるい風に吹かれながら瓶のハイネケンを飲んでいた。自宅にいながらにして、まるで東南アジアの中華街にある安宿に「沈没」しているかのような錯覚に襲われたのだった。


 弱火にして風呂に入っていれば、こんな色になっている。またガス代がかかるものを……
 ちなみにいわゆるトロトロの角煮にはならないので、そこだけはご留意を。旨味と食感が「ぎゅっ」という感じに詰まったものができあがる。


 この豉油猪肉というのは、煮返せばそれだけ味がさらにさらに詰まって美味くなってくるというのが実に嬉しい。
 ビールでも間違いないのだが、こいつが真価を発揮する相手はやはり米の飯だと感じさせる。硬めに炊いた白いご飯の上にいい色になった肉や大根を乗っけて、味の染み染みになった卵を箸で割ってふうふう吹いていると何とも言えない幸せで満ち足りた気分になってくる。

 肉の塊を食い切ったら、最後に残った肉のかけらや長ネギごと汁で高菜を炒めてやる。これもまた白い飯に乗せて食うと美味い。ここまで無駄にならないというのは、あらためて考えてみてすごい。中国4000年の知恵に感服する他ない。こいつで炒飯にしても当然のように美味かったし、邱永漢によるとパンに挟んでみてもいいのだとか。次回作った時はパンにもお手合わせ願おうと思う。

カツオのたたきの残りをサンドイッチにする


 高給取りではないので、カツオのたたきの安さにはお世話になっている。サクでも300円ちょっとで売られているから実にありがたい。
 1本全部ひと息に食べてしまってもいいのだけれど、3切れ4切れを残しておく。それをハーブソテーにして、全粒粉の食パンでサンドイッチにすると休日の朝がとても豊かな始まり方をするのだ。
 近所にある日本酒とワインを出す大変に気に入っている小さな飲み屋があるのだけど、そこのサバサンドが大好きだ。全粒粉の食パンを使うのは、なんとなくそれをイメージしていたりもする。

 ちなみに実家に帰った際に最近一人暮らしを始めた妹にこのレシピを話したところ
 「キッチンにタイムやローズマリーがある男なんて心底信用ならねえ!!!」
 とのお言葉を賜った。どうやら僕が付き合ってはいけない類の男なのも、多方面から認められているようである。

青唐辛子を醤油に漬ける


 これはもう、そのままだ。特に変わったものは何も使わない。
 青唐辛子を刻んで、瓶に入れて醤油をドクドク注ぎ込んでおく。昆布の一片を入れてもいい。僕は入れる。
 一週間も冷蔵庫に入れておけば、青唐辛子の風味が醤油に移って使い勝手のいいピリ辛調味料になる。
 そして恐ろしいことに、青唐辛子にも醤油が染みてくるわけで……こいつが実に凶悪なビールのつまみになるのである。唐辛子そのものだからもちろん辛いし、醤油が染みているからしょっぱい。それを洗うようにビールを流し込むと、実に悪いことをしているような嬉しさがやってくる。絶対に体に悪いので、どうぞ程々に。

 もちろん調味料としては極めて優秀だ。これで作る釜玉うどんは爽やかな辛味があってクセになるし、揚げ物との相性もいい。
だがしかし、これで作る刺し身の漬けが実に美味い。伊豆大島の「べっこう」というやつだろうか。

 近所のスーパーでは、刺身パックの切れ端が詰め合わせにされて格安で売られている。こいつが手に入ったら、青唐辛子醤油で漬けにする。脂の多いサーモンでも、案外いい感じになってくれる。
漬け丼に飽きたら出汁を投入して漬け茶漬けにして食うのもいいだろう。というかいい。よかった。


 という感じで、日々自分の食うものをこしらえている。どなたかお嫁にもらってくれませんか?