濹堤通信社綺談

江都の外れ、隅田川のほとりから。平易かつ簡明、写真入りにて時たま駄文を発行いたします。

草むらのヒーローに会いに

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 「草ヒロ」という言葉がある。僕はその言葉について漠然と、「草むらに放置され錆び付いた廃車体」という理解をしていて、実際それは間違っていない。でも、なぜそういう廃車体を「草ヒロ」と呼ぶのか、はじめは疑問も感じたのだろうがいつしか何も感じなくなっていた。
 で、最近ようやく「草むらのヒーロー」の略なのだ、ということを知った。なるほど納得そのとおり、錆び付いた廃車体は「草むらのヒーロー」そのものに他ならない。
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 僕の育った街には草むらなどというものはなく、それらしいものと言えば荒川の河川敷くらいなものだが、廃車体なんてなかった。でも、父の運転する車で少し郊外に出たりすると、途端に国道の脇に錆び付いた廃車体がいたりする。畑の中の軽トラック、ラーメン屋だったと思われる原色に塗り潰された古いバス、物置がわりに使われている(た)、すっかり色褪せた国鉄コンテナ。ワムだったりするともう最高。
 とまあ、ここまで書いてみて思い出したのだけれど、僕の街にも廃車体はあった。草むらではなく、スクラップ置き場の隅に。国鉄の、古い客車が輪切りになって転がっているはずだ。古い客車にはおなじみのキャンバス地を貼った木製の屋根がすっかり朽ち落ちていて、夏になるとチョウセンアサガオだかなんかが絡みついて咲いていたりするのだ。

 廃車体はなぜいいのだろう。考えて答えを出す程でもない、と思うので考えない。とにかく、廃車体はいい。草むらのヒーローだ。わかんない人にはわかんないでしょうけどね。でもやっぱり、廃車体はいいのだ。

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 そんな草むらのヒーローを作ってみた。手癖で。いや、「手癖で」って言いたかっただけ、という部分はあります。すいません。Twitterでイラストを描く人の「手癖」に対して素朴な憧れがあり、「ぼくも手癖で何かつくりたい!!!!!」と泣きわめきながらデパートの床を転げ回っている時に思いついたのがジオラマだった、という話である。
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 ことの始まりは電球型のボトルというものが流行りだして、百均で売られているのを見たときに「この中にジオラマ作ったら何やらとってもカワユイのでは???」と思ったのがきっかけ。初めダイソーで売られていたのはガラス製のボトルで、これはボンドが全くガラスに付かず失敗。その後セリアでプラスチック製のボトルを見つけて、ダイソーでも売るようになり、しこたま買い占めたはいいもののその気になれず放置して、気づけば1年近く経っていた。
 でも手癖なのは本当で、新しい技法のチャレンジなどは何もしていない。ジオラマ(特に鉄道模型の)を作ったことのある人ならば、容易に想像できる方法だ。もし知りたい人は、鉄道模型レイアウトのハウツー本かなんかを読んで下さい。

かんたん!30日でつくる Nゲージ鉄道模型ミニレイアウト

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 (ちなみに↑はアフィリエイトではなく、このリンクから購入された場合でも僕にはびた一文も入ることがない。本当にただのオススメである)
 
 特筆すべきことを言うならば、地面のベースになっているのは、コーヒーの飲み殻を乾かしたやつ。ただこれはオリジナルという訳でも何でもなく、今よりもジオラマ製作材料が豊富でなかった時代ではそれなりに知られた方法だったようだ。たしか名作パイクの『カステラ箱のレイアウト』でも使われていた気がする。1杯ぶんをドリップするタイプのものが、粒が細かくてよろしい。ボトルの内側底にボンドないしマットメディウムを塗り、コーヒー飲み殻を適量流し込み、ボンドないしマットメディウム(マットメディウムなのだが)を水に溶き、中性洗剤を混ぜたものをスポイトで垂らして固着する。口が狭いので、水分が蒸発するまでにはそれなりの時間がかかる。
 あと、個人的な「縛り」として、今回は瞬間接着剤を使わなかった。ボトルの内側が曇るのが怖かったのではあるが、おかげで随分と大変だった。f:id:miko_yann:20180214221542j:plain
 ボンドの固着にずいぶん時間がかかることが判明したので、実は同じようなものをいくつか同時進行で作ったりもした。広口瓶型のボトルの方が圧倒的に作るのは楽なのだが、見栄えを考えるとやはり電球型のほうがいいな。実際かわいいでしょ?

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 とまあ色々作り散らかして、一番気に入ったのが結局この草むらのヒーローだった。コーヒーにアイリッシュ・ウィスキーなど垂らして、机でこいつを眺め回しているのは、思ったよりずっといい時間である。傍から見たらオタク行為以外の何物でもないけど。
 
 あ、もし似たようなのが欲しいという方がいたら作るので、ご一報願えれば幸い(本気)。