濹堤通信社綺談

江都の外れ、隅田川のほとりから。平易かつ簡明、写真入りにて時たま駄文を発行いたします。

冒険してみる週休2日

最近、なんと週に2日も休めている。
去年は7月の終わりから基本的に週休1日だったので、休みが週に2日もあるとずいぶん楽だ。
しかも休みが2日続いているものだから、1日めいっぱい遊んでも翌日寝ていられる。アラサーには堪えられない喜びだ。
世間様の土日休みとは1日ずれて日曜月曜の休みではあるけれど、日曜に友人とワイワイ遊ぶような、活動的で社交性に満ち溢れた素敵な休日というやつを過ごさせてもらっている。いや本当、いつぶりだろう。

日曜深夜の都心を自転車で駆け抜ける週末の冒険


突発的に僕が大量に飯を作り、人にふるまう日曜日がたまにある。だいたい、競馬のG1レースの日だったりはする。
飯を食い、酒を飲み、馬鹿話で笑い、まあだいたい歌いだす。
この間、どういうわけだかひどく酔っ払ったやつが出た。両脇から抱えないと真っ直ぐ歩けないような有り様で、もう仕方ないからタクシーに乗せて帰そう、という話になった。で、なぜか隣に僕も乗ることにした。
一人で帰すのが少し不安ではあったし、僕はどうせ翌日の月曜も休みで予定もないものだから、まあ今日中に帰れなくともどうとでもなるのだ。

「笹塚の方なんですよぉ!あのぉ~」
ベロベロに酔っているくせに、妙にしっかりと運転手に自宅近くのランドマークを伝えられるあたり、こいつはタクシーに乗り慣れているのかもしれない。中々に油断ならない。

酔っぱらいにも色々いるが、喋るタイプの酔っぱらいというのは大概決まって同じ話を何度も繰り返す。

「あのねぇ!誰にも言ってない話なんだけどさぁ!なんで俺が一人暮らし始めたかってっとね……」

正直に感想を言えばしょうもない話ではあったのだが、僕はこれをこの後7回くらい聞かされる。

「それでぇ!なんでね、これを誰にも言わなかったかって言うとね……」
はいはい。同級生でお前の同僚のKが彼女になぜフラれたか、って話を親経由で聞いたんだもね。

「Kってさぁ、そんなに変なやつでもなかったじゃん?それがさぁ!『あなたには常識がない』って……」
かわいそうというか、正直言うと少し面白い話ではある。我が母校の常識は世間の非常識、という言葉が証明されている。

「だからぁ!親同士のネットワークってこの歳でも恐いなぁ……って」

この話は車中で5回、部屋について3回繰り返されるのだが、そんなことには構わずにタクシーは夜の東京都心を進んでいく。
本郷から小石川に抜け、牛込を通って新宿へ。僕は免許を持っていないから、夜に車に乗ることそのものが楽しい。

ところで僕には山手線の向こう側の土地勘というものがとんと無いものだから、新宿の西口を過ぎて、笹塚なんて新宿のすぐ隣なのかと思っていたら中々つかない。
ようやくそいつの部屋に着けば午前様。すぐ帰れば終電に乗れたものを、ぐるぐる巡る終わらない酔っ払いの話に付き合い続けてしまった。
部屋を出たのは午前1時過ぎ。当然終電なんてものはない。

さあ。
どうしよう?

前の通りにタクシーは走っているが、ベロベロの酔っぱらいが押し付けてきた一万円札を
「俺はお前と友達だから、これは受け取らないよ?」
などとカッコつけて押し返してきているので、タクシーで帰るのも少し癪だ。だいいち、懐だって寂しい。
しかし、一万円札を握らせてくるなんて、やはり前後不覚時の対応に妙な慣れを感じる。なんとも油断ならない男だ。

新宿までいけば、終電まで過ごせるところはあるか、と思って消極的に深夜の冒険を始めたところ……

シェアサイクルを見つけた。こいつで日曜深夜の東京都心を横断してやった。
杉並区から台東区まで13kmを、結果的に1時間半で帰った。料金にしてなんと500円足らず。

いや全く、こんな大学生みたいなことをするとは思わなかった。
でもなんだか、いやいや結構なかなか楽しい深夜の冒険だった。筋肉痛にはなったけど。

優秀な売り子として春菊天の美味さを知る週末の冒険

先週の日曜日はコミティアに参加してきた。創作オンリーの同人誌即売会だ。
前に行ったときは青海の会場でやっていた気がするから、本当に数年ぶり。コミティアは年4回もやっているから、2,3年行かないとずいぶん行っていないような気がしてしまう。
昼くらいから一般参加してフォロワーの皆様にご挨拶でも差し上げようかな、などとボンヤリ考えて前日から仕込んでいた染みウマフレンチトーストで優雅に朝食としていたら、友人が「売り子がいない!!!」と悲鳴を上げているではないか。

そんなわけで、友人であるたいぼくちゃんのブースで売り子としてコミティアを過ごしてしまった。

このたいぼくちゃんというのが、年に数回の同人誌即売会での売上が文字どおりの生命線のような中々の人物であるから、その新刊既刊を求めるお客がひっきりなしにやって来る。
「はい、新刊ですね、600円。あ、既刊が、これとこれ、じゃあ合計1800円ですね。はい、2000円から……」
などとお客を次から次へとさばいていくと、古式ゆかしいキオスクのオバチャンの気分で中々楽しい。
そういえば子供の頃は、千代田線の北千住駅ホームに売店があって、そこがなぜだか素朴に羨ましかった。
狭いところで色々な物に囲まれている、というのは僕にとってある種の理想的空間なのだろう。
今の生活空間を眺めてみれば我ながら納得である。だって、モノが、多い。



帰ってきて慰労会。一人では絶対に揚げ物をしないので、人が来てくれると揚げ物をしたくなる。寒かったので、スンドゥブチゲも作る。
揚げたての春菊天というのを、そういえば初めて食べた。実家の天ぷらレパートリーにはなかったし、立ち食い蕎麦の春菊天なんてものは衣がネトッとしているのをソバツユに沈めてエイヤと食べるような代物だ。
それをこの僕が揚げてやれば、実にサクサクとして、香りが良くて本当に美味い。天ぷらという食い物の、一番純粋なところを食っているような気になる。


春菊、舞茸、ふきのとう。どれも香りがよく、ということは日本酒によく合う。
新潟長岡の「朝日山」を最近一升瓶で買うのだが、二人で飲んでいて半分は消えた。新潟の酒は水のようなものなので仕方ない。

そうやって手前味噌ならぬ「手前天ぷら」で自分の飯にうまいうまいとやっていたら、徹夜続きで原稿を仕上げてイベントを終え、日本酒も入って完全に脱力しきった"サークル主"が、すっかりトロンとした眼をして言うのだ。


「こんなに色々作れるのに、なんで結婚できないのかねぇ」


それは、本当に謎なのだ。


ちなみにたいぼくちゃんのコミティア新刊は絶賛電子版でも販売中である。
背の高い女が好きな方にはぜひ、そうでなくともおすすめしたい一冊なので是非によろしく。既刊もね。
taiboku.booth.pm