濹堤通信社綺談

江都の外れ、隅田川のほとりから。平易かつ簡明、写真入りにて時たま駄文を発行いたします。

うなぎ風カマボコでうざくを作りビールを飲む

本来は別のオリジナルがあってそれを模倣した代用品だったはずなのに、もはや別のオリジナリティを持ってしまうものがある。
食べ物でいうなら、がんもどきが代表ではないだろうか。
「あれは本来、精進料理で雁の肉だんごを模して~」などというのを聞いて知ってはいても、正直なところ雁の肉だんごなんてものを食べたことがある人が今の世の中にどれほどいるのだろう。
というかそもそも、がんもどきと雁の味というのは本当に似ているのだろうか。雁といっても鳥なわけで、鶏肉のだんごとどれほど違うのだろう。
いやそれとも、今の我々が知るがんもどきは「がんもどき」としてのアイデンティティが確立され、がんもどきとして洗練され、先鋭化したがんもどきなのではないか。本来の、雁の代用として作られたがんもどきは、もしかしたらもっと肉肉しく、荒々しいがんもどきだったのかもしれない。

とまあ、ここまでがんもどきの話をしておいて何なのだけれど、今回はがんもどきの記事ではないのだ。


7月の土用の丑の日を前に、スーパーでこんなものを売っているのを見つけて買ってみた。
www.sugiyo.co.jp

うなぎの蒲焼を模したカマボコ。こういったものがあるのは以前より知っていたけれど、買ってみたことはなかった。
冒頭のがんもどきの話の裏返しになるが、こういう「モドキ」食品を前にした時にに感じる「実際どうなの?言っても本物とは違うんでしょ」という疑念は、恐らく多くの人がわかってくれるのではないか。
要は、本当にウナギの代用品として十分な味なのか、はたまた「別物」としての美味しさを確立しているのか。そこのところを疑ってしまうから、中々手を出せずにいたのだ。

で、これ。
僕の結論としては、アリ。
十分、うなぎの蒲焼の代わりをしてくれる味だ。
いやはや、すごいですよこれ。


我が家では、うなぎの蒲焼を買ってくると少し残しておいて、翌日にうなぎを巻いた卵焼き「う巻き」にして出てくる文化があった。恐らく、母が好きなんだろうと思う。家庭における食文化というのは、意外なくらい作る人の好き嫌いに支配されているものだ。
タレの味で食べてしまうようなものだから、う巻きにするうなぎなんて安いもので構わない。
そこに来て、このカマボコなら安いうなぎよりよっぽど安い。皮のブリッとした食感がわざとらしく再現されているのも憎い。


そしてうなぎの蒲焼ふうカマボコを使った僕の本命がこれ。うなぎの蒲焼とキュウリの酢の物、「うざく」だ。
貧乏性だから、本物のうなぎの蒲焼を買えば、とてもではないが勿体なくて酢の物なんぞにはできない。
そこにきて、このカマボコなら気兼ねなく酢の物にできる。細かく切ってしまうものだから、ソリッドな見た目も気にならない。


そしてこの「うざく」というのは、とてもとてもビールに合う。
それもヱビスビールとか、キリンラガービールとか、どっしりとしたクラシカルな味のビールを、「コップ」と呼びたくなるような小さいグラスでやるのがいい。
実に夏向きの、贅沢なつまみが手頃な値段で済んでしまう。
この感動を僕は誰かと分かち合いたくて仕方がない。まだまだ暑くてビールは美味いだろうから、ぜひともカマボコうざくで一杯やってみてほしいのだ。