濹堤通信社綺談

江都の外れ、隅田川のほとりから。平易かつ簡明、写真入りにて時たま駄文を発行いたします。

春はたけのこ

 仕事がない。いやまったく、困ったものである。
 すべてはあの、忌々しいCOVID-19とやらのせいである。僕はいわゆる教育業界で飯を食っているため、その影響で今は仕事が一切ない。今後どうなるのかもわからない。考えたってしかたがないので、僕は早々に気持ちを切り替えて家事に勤しんだり、引っ越し以来封印していた模型いじりを再開したりしている。
 いつの日かまた競馬場で大声を出したり、飲み屋で馬鹿話をしながらレモンサワーをひっくり返したり、カラオケでBe My Babyを踊り狂える日が来るのだと信じるしかない。全ての戦う人々に敬意を、困っている人に連帯を示したい。政府は税金を返せ。
 
 終わりの見えない異常事態の中で、それでも日常を生きていかなければならない状況というと、やはり内田百閒の『東京焼盡』を思い出してしまう。今の情勢を軽々しく戦時中と比べるべきでないという意見もあるかもしれないが、それでもやっぱり思わずにはいられない。
 『東京焼盡』は戦時中の百閒の日記をベースとした、暮らしの記録である。百閒らしく、食べ物、酒、そして煙草にまつわる話に溢れている。
 百閒の書く、食べ物の文章が僕は好きだ。『御馳走帖』という食べ物・酒・煙草にまつわる話をまとめた百閒の随筆集がある。もしも無人島に1冊しか本を持っていけないのだとしたら、僕はそれを選ぶと思う。それくらいの「好き」だ。なぜこんなにも好きなのか考えたところ、思うに百閒が「美食家」ではないからだと思う。
 百閒は「美味しいもの」が好きというよりは、「自分の好きなものが好き」という人だと思う。「好きなもの」を「愛するもの」と言い換えてもいい。実は美食家という人たちのことをよく知らずに苦手意識を持っているのだが、「かまぼこの板に包丁を立ててがりがり削ったものに生姜醤油をかけたもの」に対する愛を語る人のことを美食家と言うだろうか。言うのならごめんなさい。ちなみにこれは、『御馳走帖』の中の一編に登場する。本当におすすめな本です。
 食べ物以外にも鉄道・小鳥・猫など、百閒の随筆の中には自分の好きなものに対する愛が溢れている。百閒は間違いなく、愛に溢れた人だ。好きなものを好きと言えるのは大事だし、なぜ好きなのか、どう好きなのかを語れたらかっこいい。僕はそのへんがわりと苦手なので、もっとかっこよくなっていきたいと思ってはいるのだ。
 
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 今日は、天ぷらを揚げた。実家を出て自炊をするにあたって立てた自分ルールの一つに「揚げ物をしない」というのがある。実際、8ヶ月の自炊生活で揚げ物をしたのは今日で3度目である。
 なぜその誓いを破ってしまったのかというと、なんと京野菜が届いたからだ。段ボールで一箱。たけのこ、たらの芽、こごみ、エトセトラエトセトラ。ワオ。ワオワオワオ。これはもう、天ぷら以外にどうしろというのだ。だって、たらの芽って天ぷら以外にどう食べたらいいのか知らないもん。実際何かあるんでしょうか。
 単純に面倒くさいがために揚げ物をしたがらなかったのだが、天ぷらというものがこんなにもテンションの上がるものだとは知らなかった。テンアゲだから天ぷらというのは、古くは江戸時代から言われている。嘘だけど。煮えたぎる油にタネを落として、ショワショワと揚がってゆくところを見ているのは実に景気が良い。今の天ぷら粉はすごいので、袋に書いてあるとおりに作るだけでちゃんとした天ぷらが出来上がった。ちょっと本気で揚げ物環境を作ることを決意させるくらいの魅力が天ぷらにはあった。
 春はたけのこ、とは清少納言も言っていない。でも、新物のたけのこが来たのに、たけのこご飯を炊かないというのは嘘だ。これに加えて菜の花のおひたしも作ったら、もう完全な春御膳である。新橋と銀座の中間くらいの薄暗いお店で食べたら9000円くらいするかもしれない。食べたこと無いけど。
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 しかし、よくもまあ自炊歴8ヶ月でここまでするのだと、我ながら呆れるところも無いではない。

 京野菜は、愛すべき親友からの誕生日プレゼントである。親友の友人に京都の八百屋がおり、そこから送ってもらったものだ。持つべきものは友である。いや本当に。
 最近は色々な物の入手に「伝手」を使うようになってきた。マスクは歯科衛生士の母親から入手したものだし、米だってこれまた素晴らしい友人が30kg担いできてくれた。持つべきものは実家が農家で釣りが趣味の友人である。いや本当に。
 それにしても30kgの米が家にある、というのはいい。わかりやすい安心感がある。ただ、伝手で手に入れた米というのもいよいよ戦時中じみてきたな、と思うのも事実である。明日もまた、この「ヤミ米」を食べて生きていく。

 あ、ちなみに僕の誕生日は4/25です。なにとぞ。


 以下は、前回の更新以降作った料理の中で、評判の良かったものや書きたいものについて書くコーナーである。定番化するかもね。

キノコのポタージュ

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 実家に帰ったら立派なブラウンマシュルームをせしめることができたので、フードプロセッサで砕いてポタージュにした。生クリーム使ってないけど。
 フードプロセッサというのは本当にすごい。発明者はちゃんと歴史に名を刻まれているのだろうか。こいつがあると無いとでは、調理の効率が段違いだ。あってよかったフードプロセッサ。ちなみにこれは同居人の持ち物だが、そいつが使っているところは見たことがない。

春キャベツのもつ鍋風炒め

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 春キャベツ、ニラ、玉ねぎをにんにくと中華だしペーストで炒め、仕上げに醤油とゆずこしょうで味付けする。味はほぼもつ鍋。実際、材料がもつ鍋だもんね。「二次会にお誂え向きな宮崎コンセプトの居酒屋の定番メニューにありそうなノリのもの」とは同居人の談である。

カツオのたたきと新たまねぎのサラダ 甘藷と鶏ひき肉の煮付け

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 「今カツオがうまい」というので買ってみたが実際美味しかった。春は新玉ねぎをモリモリとたべなければいけない。食べなければいけないものが多いのが春である。
 同居人の実家ではさつまいもをおかずに仕立てる文化がなかったらしく、新鮮な味だったらしい。醤油で甘辛くなってれば何でもおかずになっちゃう、というのは僕が純粋培養の関東人だからかもしれない。カレーは牛肉だけど。